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『大和名所図会』今昔めぐり ⑧奈良坂 般若路 酒野在家(巻之二)(関連スポット:般若寺)

江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)

8.奈良坂 般若路 酒野在家(巻之二)(関連スポット:般若寺)

 

奈良坂は、般若寺を経て山城国木津へ出る坂のこと。挿図の右に、峠を越えて大和に足を踏み入れる旅人が2人。中央の松の向こうに広がる町並みは「郡山」。奈良坂周辺から、当時は郡山まで眺望できたようです。現在は、う~ん、見えませんね。

 

その2人の旅人に、当時の“タクシー”である駕籠の担ぎ人が、饅頭のようなものを食べながら声をかけています。

 

「そこの旅のお方、駕籠に乗らんかね」

「いやいや脚で歩んでこそ。急ぐ故失礼つかまつる」、とか。

 

左上に添えられた「青丹吉(あをによし)ならのおほぢはゆきよけど この山道はゆきあはしけり」は万葉集の一首。奈良の都の大路は行きやすいけれど、山道は困難だ、と。奈良坂の峠は、駕籠の稼ぎ場だったのでしょう。左には茶屋で一服する3人の旅人。茶をすすり、串に刺したものを口に運んでいます。四角に見えるので、餅?こんにゃく?

 

旅人に声をかけた駕籠かきの相棒は、この絵の中で唯一、陰気に見えます。膝を抱え、背中を丸め、眉尻を下げています。人には言えない、とてつもなく深い悩みがあるのでしょうか。

 

題にある3句の最後「酒野在家」は、堂々と飲酒できない僧侶たちの間で酒を指して言った隠語「般若湯」と般若路をかけた表現だと思われます。言うまでもなく、酒は大和の名物でした。

 

奈良坂・般若路の中心スポットは「般若寺」です。聖武天皇が堂塔を建立し、大般若経を地底に納めて、その上に十三重石塔が立ちます。源平が合戦を繰り広げた時代、平家による焼き討ちで伽藍が灰燼(かいじん)に帰したこともあります。今では、コスモスなどの花々に彩られる古刹として、観光客らに人気があります。近鉄奈良駅から東大寺を経て、般若寺まで徒歩で足を延ばせば、絵図の時代の旅人気分が味わえるかもしれません。

 

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