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『大和名所図会』今昔めぐり ⑪春日野の早蕨(巻之二)(関連スポット:春日野園地、若草山)

江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)

11.春日野の早蕨(巻之二)(関連スポット:春日野園地、若草山)

 

早春の春日野で芽を出した早蕨(さわらび)を摘む女性たち。煙草をふかしたり(手元をよく見ると、吸い殻入れのようなものが。描写の細かさに感心させられます)、髪をといて結い直したり、着物の袖を袋代わりにしたり、早蕨摘みは女性たちにとって、レジャー感覚で楽しめるイベントだったのかもしれません。

 

右上に「春日のの草葉は焼くとみえなくに下もえ渡る春の早蕨」とあります。当時、春日野では野焼きが行われていたようで、「燃える」と「萌える」が掛けられた歌になっています。

 

「春日野」の地名は現在、奈良公園の春日野園地(写真)、春日大社や春日山原始林を含む春日野町に見られます。春日野園地からは東大寺大極殿や若草山が眺望でき、春日山原始林には手つかずの自然が残されています。

 

また、図会本文には、春日という名称の由来が書かれています。いわく、「ここを春日と名づくる事は・・・(中略)・・・春の日の長閑なる御ここ地にて春日と御歓たまひ、その所の里をも春日となづけられ」とあり、春の日のようにのどかで居心地がいいことから名づけられたようです。

 

「奈良の鹿」が多く生息するエリアで、「春日野鹿」は室町時代の文献に登場する南都八景のひとつです。遣唐使として唐に渡ったものの、日本に帰国することができなかった阿倍仲麻呂の望郷の歌「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」も“春日”が詠まれた歌として有名です。

 

さて、現代も蕨摘みは春の風物詩。4月初め頃、若草山の日当たりのいい斜面には、ワラビがニョキニョキ。それを摘みに来る人や家族がちらほらと見られます。食べるにはアク抜きをしなければならず、手間暇がかかりますが、春の味覚に欠かせない山菜です。

 

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