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『大和名所図会』今昔めぐり 34 天河 惣門滝(巻之六)(関連スポット:洞川温泉)

江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)

34.天河 惣門滝(巻之六)(関連スポット:洞川温泉)

 

大和名所図会の本文に「名水なり。水源山上嶽(やまかみがだけ)より流れて、洞川の北を経て河合に至り、衆渓と合し、云々」と紹介されている天川(てんのかは)。題字にあるのはずばり「天ノ河」で、お察しの通り、現在の天川村の風景が描写されています。

 

奥にいかにも険しそうな高峰がそびえ、大きなスケール感で惣門滝が流れ落ちています。

 

挿図の中央右にある「後醍醐天皇御所坊」と、本文に「山樹青秀として、中に瀧あり」と記されている惣門滝を、それぞれ現在の地図にある南朝黒木御所跡(御所の坊跡)、双門の滝と推定するなら、奥に屹立する峰は、大普賢岳(1780m)、あるいは行者還岳(1546m)でしょうか。

 

ものの登山案内によると、双門の滝は、超がつく上級者向けの登山道を行かねば見ることができず、それほどの瀑布が描かれているとすれば、背後の山は、修験道の祖である役行者でさえ引き返したことがあると伝わる行者還岳とみることができます。

 

南北朝時代の南朝の後醍醐天皇、後村上天皇、長慶天皇、後亀山天皇ゆかりの南朝黒木御所跡(御所の坊跡)は、天河大辨財天社のそばにあります。

 

左上の文は、室町時代の『源氏物語』注釈書である『河海抄』の一節を引いて、「在原業平朝臣 天の川の岩窟に入定したまふ」と記されています。

 

在原業平は平安時代の貴族・歌人で、数多くの歌が勅撰集に収録されており、六歌仙のひとりです。業平は天川村を訪ねたこともあるようで、「狩り暮らしたなばたつめに宿からむ天の河原にわれは来にけり」という歌を残しています。

 

「天の川の岩窟に入定したまふ」の関係からでしょうか、天川村坪内にある廃校地に在原業平之墓がひっそりとたてられています。

 

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