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『大和名所図会』今昔めぐり 30 天香久山(巻之六)(関連スポット:香具山)

江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)

30.天香久山(巻之六)(関連スポット:香具山)

 

飛鳥のすぐ北側、古都が築かれた藤原京に、「大和名所図会」の著者・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎も引きつけられました。挿図は藤原京から眺めた天香久山(香具山)。標高152.4mと丘のような高さですが、奈良県で最も有名な山のひとつです。

 

中央奥に天香久山、左手前に天磐戸(あまのいわと)、湯笹が描かれています。集落の周囲に区画された水田が広がり、曲折する里道には行き交う人々が見えます。右上には「君が代は天のかぐ山出づる日の照らむかぎりはつきじとぞ思ふ」の歌。

 

天香久山が詠まれた歌は他に「春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山」(持統天皇)や「香具山は畝火雄々しと耳成と相争ひき神代よりかくにあるらし古もしかにあれこそうつせみも妻を争ふらしき」(中大兄皇子)が有名です。

 

図会本文は、『萬葉考別記』から「やまとの國は山々四方にのみ廻り立ちて、國の中は平かなるに、香山・耳成山・畝火山の三つのみ各獨立ちて」と地形の下りを引用し、特に天香久山の山容を「香山は中に低けれど、形は富士の山をちひさく作れる如くにて」と、天下の富士山になぞらえて称賛しています。

 

この天香久山、挿図に天磐戸が描かれていることからわかるように、古来、神聖視されてきました。『日本書紀』には、神武天皇が天香久山の土で平瓦をつくって神々をまつったところ、敵を降伏させたことが記され、天岩戸神話で天照大神が閉じこもった岩戸の前で踊った天鈿女命(アメノウズメノミコト)は天香久山の榊を髪飾りにしていたといいます。

 

また、『続日本紀』と『伊豫国風土記』には、高天原から天孫が降臨した際、天にあった山が2つに分かれて、1つは大和に(天香久山)、1つは伊予に(天山)降りてきたことが紹介されています。

 

さて、この天香久山について、大和名所図会は興味深い説を披露しています。「或書に、古老の曰く」として、「天香久山は今の音羽山の事なるべし」と。音羽山は談山神社の北東にあり、尼寺の観音寺がよく知られています。

 

藤原宮跡に立つと、東に天香久山(香具山)、北に耳成山、西に畝傍山と大和三山が見渡せます。天香久山(香具山)の東麓には橿原市昆虫館や遊具が充実する香久山公園があり、ファミリーに人気のエリアになっています。

 

「奈良の名山を登る 香具山(橿原市)」の記事はこちらです。
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